旅日記


2002年2月17日(日)
トロント
晴れ

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グランプリ2002目指せ先頭車両
シュウvsかおりvsざざ(+ vs車掌)
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本日は写真なし

 ソ〜ミ〜ド、プシュ〜。これは、トロントの地下鉄のドアが閉まるときの音。通常、車両が駅に到着、そして5秒後くらいにソ〜ミ〜ド〜の音の後、ドアが閉まります。しかし、この日だけは違いました。

 夜の11時くらいだったでしょうか。私のパソコンのWindows Messenger上に、近所に住むシュウからメッセージが届きました。
「これから、由香(1月に帰国しましたが、再度、カナダに遊びにきています)の泊まっているホテルに遊びに行こうぜ。今夜はパーティーだ」
早速、身支度を整えると、シュウ&かおりと合流し、身を切るような寒さの中、3人でSheppardの駅を目指しました。

 由香の宿泊しているホテルは、Sheppardから地下鉄で30分ほどのところ。通過駅の数にすると、約10といったところです。最後尾の車両に乗り込んだ我々は、「車中暇なので30分間、何かゲームをしよう!」ということに決めました。ここでシュウの出したアイディアが、「グランプリ2002!目指せ先頭車両」でした。ゲームのルールを解説しましょう。

<基本情報 トロントの地下鉄について>
・トロントの地下鉄は、7両編成程度(6から10車両くらいの連結だったと思う。数えたことがないので曖昧)。
・トロントの地下鉄には、先頭車両に運転手が、そして中ほどの車両に車掌がいる。
・車掌は、列車が駅に到着すると窓から身を乗り出し、乗降客のチェックを行う。また、ドアの開け閉め、ドアを閉める際の音だし(ソ〜ミ〜ド〜)作業を行っている。
・トロントの地下鉄は、連結部を通過しての車両間の移動ができない。つまり、ドアから車両外に出ないと、ほかの車両に乗り込めないということ。

<ゲームの目的>
・誰が最も早く先頭車両にたどり着けるか。つまり、下図で言うと、◆(後尾車両)にいる我々は、★(先頭車両)を目指さなければならない。3人のうち、★にもっとも早くたどり着いた者が優勝。(◎は、車掌がいる車両)

◆□□◎□□★ 進行方向→

<基本的なゲームの流れ>
・地下鉄が駅に到着→ドアが開く→ドアが開いている数秒の間にホームを走り、ドアが閉まる前に再乗車。これを繰り返して、先頭車両を目指す。

 目的とルールを共有した我々は、スターティンググリッドにつき、Sheppardの次の駅であるYork Mills到着と同時にレースをスタートさせたのでした。

 「ちきしょう!シュウのやろう、あんなところまで進みやがった…」
レースも中盤に差し掛かったところで、現在の状況を。

1位:シュウ
2位:かおり&筆者

◆□○◎□□★ 進行方向→

◆スタート車両
○かおり&筆者のいる車両
◎シュウのいる車両(車掌もいる)
★ゴール車両

 「かおり、気づいていた?今の駅って、乗降客俺らだけだったよね。まぁ、時間が時間もんね(この時、夜の12時くらい)。俺、車掌が俺らに注目していたように感じたんだけど…。車掌、にらんでいなかった?怒られないかなぁ」 こんな風に心配していた筆者でした。さぁ、また次の駅が近づいてきました。思いっきり、走ってやるぜ。

 ドアが開くや否や、かおりと二人、ダッシュです。ホームの50mほど先には、シュウの姿も見えました。我ら2人は車掌の横を通り過ぎると、念のため、少し早めに車両に乗り込もうとしたのでした。ドアに近づいてみると…。
「あれ、ドア、しまってい…」
振り向くと、かおりは、窓から顔を出した車掌と何か話していました。

車両が走り出すとともに、車掌は私の横を通り過ぎていきました。しかも満面の笑みを浮かべて…。手を振りながら…。反射的に手を振り返した俺も、状況が良く読み込めませんでした。なぜ、彼の表情には誇らしげな笑みが?
「なぜ、ソ〜ミ〜ド〜の音が鳴っていないのに、ドア閉まっているの?」
我ら2人の50mほど先を行っていたシュウも、車両に乗り込めなかったらしく、我々2人は、ホーム上を歩いている彼の姿を見つけることができました。
「かおり、車掌と何話していたの? なんか、車掌笑っていたけれども…」
「車掌何て言っていたと思う? 『もう君らと一緒じゃないね。バイバ〜イ』だって」
やっと状況が飲み込めた私は絶句しました。この駅での乗降客はシュウ、かおり、俺の3人だけでした。俺たち3人がレースをしていたこと、そして、乗降客が俺たち3人しかいなかったことを見計らった車掌が、レースに参戦、つまり、いたずらしやがったというわけです。公共の乗り物である地下鉄で…。車掌のやろうは、俺らが走り出すと、音も鳴らさず、すぐにドアを閉めやがったのです。

 あぁ、カナダ。ここは不思議の国。外国人にとって最も重要な”滞在ビザ”の性別欄が間違ってプリントしてあっても、「そんなことは誰も気にしないよ。ビザに女性って印字されていても、”見た目”が男性だから問題ないさ。プリントし直すのも時間かかるから、そのままでいいよ」と、こちらの修正要求に応じてくれない役人がいる国。ラッシュアワー時、客がたくさん乗っているにもかかわらず、喫茶店の前で市バス(トロント市営バス)を勝手に止めて、パンとコーヒーを購入、しばし店員と談笑後、再度市バスに乗り込み、それを食べながら運転を再開する運転手がいる国。そして、今日の出来事のように、乗客のゲームに、カナダで最も規模の大きな電車(日本でいう山手線)を使って参戦し、それに勝利し、満足げな笑みを浮かべながら電車を出発させる車掌がいる国。あぁ、信じられない思いでいっぱい。日本では考えられない、このユーモアセンスといい加減さ、大らかさと懐の広さを持った人々が住む国。そんな国に、私は滞在しています。

<レース結果>
優勝:
 しゃしょう(所属 Toronto Transit Commission)

リタイア:
 シュウ 第2車両(所属 York University)
 かおり 第3車両(所属 International Language Centre)
 ざざ 第3車両(所属 旅行者)
更新地:トロント(カナダ)

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