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雑記


2003年08月23日(土)
ホーチミン
- 犬による犬のための物語 -

 
 ワオーンワン。

 ワワ、ワーワワンガウ。
 \/←尻尾ふりふり。

================以上意味なし================

 この世の中はとても大きくて、ぼくなんか本当にちっぽけな存在です。ぼくは根無し草のようなものです。家もありません。家族もいません。今は老体を引きずりながら気ままにいろんなところを旅しているだけです。

 実は、ぼくは飼われ犬でした。昔、といっても10年くらい前までは、番犬として人間達の世界で生活していた飼われ犬でした。ぼくは幸せなサラリーマン家庭の一員でした。ぼくには立派な名前もありましたし、そこにはぼくの家庭がありました。

 ぼくは毎日のお勤めを一生懸命がんばりました。見たことも無い人間がぼくの家にやってくると、とりあえず吼えました。それがぼくの役目だったし、そうすることで家族(当時は、そう信じてやまなかった)のみんなが喜んでくれたから。パパさんは毎度頭をなでてくれましたし、ママさんもおなかをさすってくれたのでした。ぼくはとても幸せでした。毎日皆にチヤホヤされて、とても幸せでした。そのとき僕は真に家族の一員であったような気がします。

 ぼくの周囲に異変が起きたのは、ぼくがこの家にやってきてから3年が経った頃でした。なんと、パパさんとママさんは小さな赤ん坊を授かったのです。ぼくもとても嬉しい気分になったことを覚えています。新しい友達が出来て本当にはしゃいでしまいました。初めて"みっちゃん"を目にした時は、彼女を抱きかかえるパパさんにじゃれついて、パパさんを困らせてしまったことも良く覚えています。みっちゃんがこの家に来たばかりの頃は、本当に毎日が楽しかったです。家族4人で庭の芝生に寝転んで、毎日がゆったりと過ぎていきました。そして、みっちゃんがこの家にやってきてから1年くらいが経った頃だったと思います。みっちゃんはすくすくと育ち、その頃、彼女の体の大きさはぼくと同じくらいになっていました。
「みっちゃんと遊びたい!」
いつものようにみっちゃんの元に走りました。そしてみっちゃんのほっぺをなめてあげました。「きゃっ、きゃっ」と声をあげて喜んでくれるみっちゃんをもっと楽しませたくて、ぼくは勢い余って、みっちゃんの手を少し噛んでみました。今思うと、それがいけなかったのだと思います。そのとき、みっちゃんは突然涙を流しながら、ぼくのおなかをけりました。みっちゃんの泣き声を聞きつけたパパさんがすぐに飛んできて、ぼくの頭をたたきました。ぼくはなんで怒られたのかがわからずに呆然としました。ただみっちゃんともう少し遊びたくて、みっちゃんをもう少し喜ばせたくて、彼女の手を軽く口に入れただけだったのに…。

 その一件があってから、みっちゃんはぼくのことを避けるようになりました。でもぼくはあきらめませんでした。何度も笑顔で向かっていきました。
「みっちゃんと仲良くしたい!」
しかし、みっちゃんはそのたびにぼくから逃げ回ってみたり、ぼくのおなかをけったり、涙を流しながら小さくなってみたり、そんな感じでした。しばらくの間そんなことが続きました。何度も誘っているのに、みっちゃんは一向に遊んでくれません。それどころかけられたり、たたかれたりする始末です。ぼくは悔しくなりました。みっちゃんは僕より年少だし、いわば僕にとっては後輩にあたります。
「先輩に対してそんな態度は失礼だぞ!家族はみんな仲良くしなきゃいけないんだ!」
ぼくは先輩としての責任のようなものを感じていたのかもしれません。ある日、みっちゃんの足を思い切り噛んでやりました。その日、パパさんが首輪というものを買ってきました。その日からぼくは、みっちゃんのそばに駆け寄ることも、そして家族の思い出がたくさんつまった大好きな庭を自由に歩き回ることもできなくなりました。みんなと一緒に家の中でくつろぐこともできなくなったのです。この日から小さな小屋での一人ぼっちの生活が始まりました。

 みっちゃんの世話で忙しいパパさんとママさんは、何かにつけぼくのシャンプーや散歩も忘れるようになりました。ぼくはいろいろ考えました。「どうやったら、昔みたいにパパさんとママさんが喜んでくれるだろう…。ぼくのほうに振り向いてくれるだろう…」
考えに考えた末、ぼくはもっともっと吼えることにしました。ちょっとでも知らない人が家の前を通ったら、思いっきり大きな声でたくさんたくさん吼えました。

 ある日曜日のことでした。今日はパパさんが家にいます。知らない人が通ったので、ぼくはたくさん吼えました。パパさんがぼくのところにやってきて、頭をなでてくれることを期待して…。ぼくがひとしきり吼え終わった後でした。家の中からすごい剣幕のパパさんとママさんが出てきました。
「うるさいよ!みっちゃんが寝ているんだから、静かにしてくれよ!」
「パパ、なんとかしてよこのバカ犬。最近うるさくてしょうがないんだから…。もう私の手に負えないわよ」
二人は何か言葉を発しながら、ぼくの頭をたたくのでした。ぼくはなんで怒られたのか、全く理解できませんでした。以前はあんなに喜んでくれたパパさんとママさんなのに…。ぼくは悲しくなりました。

 ある日、制服のようなものを着た知らない人がやってきて、ぼくのことをまじまじと見るんです。ぼくは彼に向かって猛然と吼えました。彼はぼくの足を捕まえて、定規のようなものでいろんなところを計測しました。
「だって、知らない人が来たら吼えるんだよね、パパさん。するとパパさんは喜んでくれるんだよね…」
「静かにしろ!」
なぜか、パパさんはそんな言葉を発しながら、ぼくを押さえつけようとするのでした。
「預かっていただけますか?」
「そうですね。このサイズの檻だったら、空きがありますよ」
二人の言葉はもちろん理解できませんでした。でもこの時、ぼくは何かを察知しました。

 ぼくは知っていました。パパさんが買ってきた首輪と紐。こんなもの、ぼくが本気になれば簡単にちぎることが出来るって。自由が欲しかった。でもぼくは、それ以上にこの家にいたかったから、パパさんとママさんとみっちゃんが好きだったから、この紐を引きちぎらなかったんだ。なんたって、4人はかたい絆で結ばれた家族だったから…。時々うざったい紐だったけれど、でもその絆を象徴するようなこの紐を引きちぎることはしなかったんだ。だけれども、もう我慢の限界でした。たたかれたり、けられたりの毎日が嫌になりました。そして、ぼくは今日の夜、ちょっとした家出をすることに決めたのでした。
「ぼくが家出をして2、3日もしたら、パパさんとママさんは必死になってぼくを探すだろう。そんな最中に、ひょっこり帰ってやろうか」

 思っていたとおり、首輪に結ばれた紐は、ぼくが精一杯の力を込めて引っ張ると「ぶちっ」という音をたててちぎれました。
「寂しいけれど、少しの間旅行に出かけるよ。その間にみんなもぼくの大切さに気づいてくれるよね。家族の大切さに…」
皆が寝静まった深夜、住み慣れた家を後にしました。一人で庭からでるのは初めての経験です。何度も何度も振り返りました。パパさんが偶然外に出てきて、引き止めてくれないかとも思いました。

 外の世界は、想像以上につらいところでした。旅慣れた犬に先輩ずらされ、いじめられ、ご飯を食べようにも一苦労でした。毎日空腹に悩み、歩き疲れ、倒れるように眠ったことも有りました。
「そろそろ、この旅行も終わりにしよう。みんな僕のことで心配顔で毎日暮らしているだろうから安心させたいな。玄関のドアから部屋の中に飛び込んだら、パパさんは体中をなでてくれるかな」

 西日がその頭だけを残し空がオレンジ色に染まる、そんな時間でした。からすの鳴き声に上に聞きながら、パパさんとともに何百回と歩いた道をゆっくり進みます。しばらくすると、思い出の我が家が近づいてきました。
「やった!表の灯りが点いている!」
はやる気持ちを抑えながら、玄関のドアをゆっくりと足でつつきました。
「ドン!」
「ドンドン!」
何度かたたいてみたのですが、返事がありません。
「そうだ!家の裏に回って、窓をたたいてみよう!窓のすぐ向こうにはみんなの姿があるはずです」

 ほのかな明かりが漏れるリビングルームからは、パパさんとみっちゃんの幸せそうな笑い声が聞こえてきました。隣のキッチンからは、ママさんのつくる、ぼくの大好物だったチキンシチューの匂いが漂ってきました。少しだけ空いた窓から鼻先をちょっと出し、室内を覗き込んでみました。懐かしい匂いが充満するその室内には、昔パパさんがぼくの体を洗ってくれた器も、そしてぼくのおもちゃがたくさん入った箱もありませんでした。かつてそれらがあった場所、僕の場所にはベビーベッドなるものがデンと置かれていました。
「パパさん、僕に気づいてくれないかな。ここで吼えたら気づいてくれるんだろうな」
でもぼくは吼えませんでした。だって、気づいたから。ぼくの居場所はもうここには無いってことに。
玄関に戻って、ドアの上にかけてある表札を見てみました。上から3番目、下から2番目にあった見慣れたぼくの名前は消えていました。

 そうしてぼくは旅に出ました。ぼくは死ぬまで旅を続ける覚悟です。一生一人で旅を続ける覚悟です。家族なんていう甘い幻想めいたものには、あれ以来縁は無かったですし、これからも持つつもりはありません。でもぼくは時々思い出します。笑顔のパパさんになでられ、優しいママさんの胸にだかれたことを。ぼくはあの時、たしかに家族の一員でした。ぼくの最も幸せな時間でした。今は家族なんてまっぴらだけど、生まれ変わったら楽しい家族を持ちたいと思います。

================以下ざざの嘆き================
 
 ありゃー、大逆転も落ちも思いつかん!だから、思いのままに書くとだめなんだってば!ぎゃー、ぐえー、恥ずかしい。失敗作だ〜。

 連日眠れないので、暇にまかせて2つ(22日分、23日分)物語ちっくなものを書いて見ました。最近、雑記更新してなかったしね。ただ、23日分に関しては、当初「犬語で文を書いたらどんなふうになるだろう…」と思って書き始めたのですが、書いていたらなんか変な方向に…。日本語で書いた後に犬語に変換しようと思っていたけれど、もはやその気力なし。ストーリーは特に意味無いです。何か寂しい旅行者の行く末みたいな感じか…。ちなみに俺の心境を表しているわけではありませんので、あしからず。
 
更新地 : Ho Chi Minh City ( Vietnum )