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雑記


2003年08月22日(金)
ホーチミン
- クチ・トンネルの謎 -

 
 ベトナム、ホーチミン市の近くには"クチ・トンネル"という総距離200kmにも及ぶ地下トンネルがある。ベトナム戦争の最中に解放戦線によって掘られたこのトンネルはアメリカ軍との激戦の舞台として後世に語り継がれているものである。

 今日でホーチミン滞在が一週間を超えた。市内の観光地もおおかたまわり尽くし、またそろそろ都会の風景にも飽きてきて、
「どこか付近に訪ねるところはないものか」
と思案していた。
「どこか物珍しい観光名所は無いものかな」
「クチ・トンネルという地下トンネルなどはどうでしょう」
「地下トンネル?」
「ベトナム戦争時に掘られた地下トンネルがこの近くにありますよ」
「そこは戦場としても用いられたところなの?」
「えぇ。たくさんのベトナム人、アメリカ人が亡くなりました」
「激戦の地か…。行ってみようかな」
「ただ、気をつけてくださいよ。ガイドを雇わないでトンネル内に入ると、迷うこともありますから」
「そんなに奥まで入らないから大丈夫だろう?」
「いや、入り口付近を見学する分には問題ないんですが…。ただ、これまで実際に戻ってこられない観光客の方もいるらしくて。何か、現地では、トンネルには亡霊のようなものが住み着いているって噂もあるくらいですから…」
「よせやぃ」
現実離れした奇妙な話にも感じられたが、毎日愛想良く笑顔で話すこの宿の主人が、この話をしているときばかりは真剣そのものだった。
「亡霊ねぇ。亡霊退治にでも挑んでみるかな」
翌日、バスに揺られること数時間、軽い気持ちでこのトンネルの前に立った。

 トンネルは密林の中に築かれていた。こんな辺鄙なところでも各国から多数の観光客が訪れるらしく入り口近くの料金徴収所にはカラー刷りの豪華なパンフレットまで用意されていた。
「こんなところで亡霊ねぇ」
呟きながら、周囲の様子を眺めた。雨模様ということもあり、そこに滞在していた観光客は私を含めて5人程度といったところだった。左手首にはまっている方位磁石つきの腕時計を見ると、時刻は既に午後3時を過ぎている。さすがに密林の中にあるため、木漏れ日以外の光は入ってこない。
「早速入って、1時間も見学してからホーチミンに戻ろうか」
独り言を呟きながらトンネルの入り口に足を進めた時だった。一人の老婆が話し掛けてきた。
「ちょっと、おにいさん」
「はい」
「わたしゃガイドをしているものだけど、ガイドは必要かい?」
「いや、私は方位磁石もありますので迷うことは有りません。大丈夫です」
「皆ガイドを雇うのにね。ガイド無しでは危険だよ」
「2、30m入ったら引き返してくるので、大丈夫ですよ」
「5日前くらいにもね、戻ってこなかった人がいて、彼もガイドを雇っていなかったから、わたしゃ心配でね」
目はまっすぐ私を見たまま、それでいて少し笑ったような老婆の唇の形に、何やら薄ら寒いものを覚えた。
「戻ってこなかった?それ以降ずっとですか?」
「5日前のお昼過ぎに入った男性でねぇ」
「もしかしたら、夜になってからトンネルを出たかもしれませんね。婆さんが家に帰られた後かもしれません」
「そうかもねぇ。ところで、ガイドが必要無いなら、そこの木片をいくつか持っていきなさい。色がついているから道中にいくつかおいていきんしゃい。道しるべになるで。なるべくたくさん持っていったほうがいいで」
老婆の指差す場所を見ると、燻った赤色のような色がついた先の尖ったの木片が散らばっている。
「婆さん、ありが…」
振り返って、そう言いかけた私の視界にはすでに老婆の姿は無かった。
「あれ、おかしいな。足の速い婆さんだこと」
ともかく、せっかくのアドバイスだ。懐中電灯も持参していないし、念には念をいれて頂いていくとするか。数本の木片を右手につかむと、トンネルの中へと進んでいった。

 中に入ると、そこは意外にも凍えそうなほどにひんやりと冷たかった。外の気温は30度も越すほどだというのに、ここは息も白くなりそうなほどの気温だ。手彫りで掘られたと思われるトンネルの奥を覗くと、なるほどそれは底なし沼のように深く、またいくようにも枝分かれしていて、トンネル内で迷う観光客がいることも納得できる。私は少し大げさかと思いながらも、「亡霊がいる」との宿の主人の言葉を思い出し、「南無阿弥陀仏」などと口にしながら足を進めた。

 腰をかがめながら、まっすぐと直進してきたはずである。方位磁石でも確認した。北西方向にまっすぐ来たはずである。恐らく距離にして30mくらいであろうか。しかし、後ろを振り返っても入り口の光は見えない。不安になり今来た道を戻ってみる。が、やはり入り口は見つからない。入り口が見つからないどころか、方々に5つもの道が続く円形状のホールのようなところに出てしまった。天井から滴る水滴が地面にぶつかり、数十年の間刻んできたリズムを崩すことなく音を立てている。
「まいったなぁ」
周囲に人の姿を探してみるが、どこにも見つからない。
「おぉい!」
叫んでみたが、自分の声がこだまするだけで、周囲からは何の返答も無い。
「この、ほぼ真っ暗闇のトンネルに懐中電灯も持たずに来たのがいけなかったか」
今さら後悔しても遅いようだが、そんなことも呟いてしまう。目星をつけた穴に、腰をかがめて進んでみた。進めば進むほど穴は狭くなり、ついにはひざを突きながら、乳幼児がハイハイをするような姿勢での前進となった。この狭い穴を進んでいると、一体どこが床なのかさえもわからなくなってくる。果たして自分が床を歩いているのか、天井を歩いているのか。
「誰か、誰かいませんか!」
大声で叫んでいると、何やら前方から声のようなものが聞こえて来る気がする。前進のスピードを速める。

 程なくして、大きな空間に出た。高さが10mほどもある大きな空間だ。遠い遠い天井の小さな穴から、かすかな光が入ってくる。そして空間の奥に位置する二つの岩の間に挟まるようにして男が座っていた。
「あぁ、助かりました」
「…」
元来無愛想なのか、もしくは疲れて声も出ないのか、男は何も返事をしない。おぼろげに伺える表情にも変化が無い。
「すみません、ちょっと」
「あぁ」
男はやっと声を発した。
「私迷ってしまって」
「あぁ」
「あなたは穴に入ってすぐですか?」
「あぁ」
「助かった。道しるべのようなものは置いてきましたか?たとえば、木片とかは」
「あぁ」
「私も、ある老婆から持っていけっていわれたのですが、道しるべとしては使ってなくて…」
天井の穴から入ってきた光の先に、右手に握っていた木片を置きました。先端が尖っていて、付近には何やら血のようなものがこびり付いた木片を。私の顔が引きつるとともに、彼の表情が一変しました。
「老婆に出会ったか。おまえはここに来る運命だったんだ。5日ぶりだな。それとなぁ、これは、こうやって使うんだよ!」

 花瓶が割れたような大きな音が耳をつんざいた後、目の前が朱色に染まりました。薄れいく意識の中で、私は彼の姿より先に、その傍らにおもむろに転がっていた白骨やらおびただしい数の木片を見つけておくべきでした。

 End

==============================ふぅ==============================

 疲れたよぉ。今回の雑記は少しいやらしくもストーリーなるものを考えた上で書いてみました。どうせ暇だし、ベトナムにからめて何か書こうかなぁってことで。途中から「おっ、なかなか怖くなってきた!」ってな感じで楽しくかけたんだけれども、終わりがねぇ。終わりの二文がねぇ、納得いかず。なんか終わってみると3流小説みたいで非常にやばい。あとね、こういう物語風のものを書くと、とたんに文章がへたくそなのがばればれ。表現力が無いというか…。まぁ、書くのは楽しいから、これからも暇を見つけて、旅行地にちなんでなんか書いて見ようなんて思うのでございます。あとね、老婆から渡されるアイテムは「サングラス」にしようかなぁなんて考えたけれど、ベタなんでやめた。目の前がまっくらで迷ったってな落ち。はぁ、頭脳労働は疲れる…。
 
更新地 : Ho Chi Minh City ( Vietnum )